マネージャー・ハイに陥らないために

今回は、テストと全く関係のない話です。
ちょっとだけマネージャという立場にいた人間が、メンバーという立場に戻って感じていることを書き連ねたものです。

マネージャー・ハイという状態

クライマーズ・ハイという言葉があります。クライマーズ・ハイとは、登山中に興奮状態が極限まで達し、恐怖心が麻痺する状態のことです。
今回は、このクライマーズ・ハイになぞらえて、『マネージャー・ ハイ』という状態があるのではという仮定のもとで、失敗しないマネジメントについて考えてみます。

マネージャー・ハイとは具体的にどのような状態が考えられるでしょうか。
例えば、

  • かつて優秀なエンジニアだったマネージャーが、マネージャーになった後も自らの手で技術的に困難な状況を解決し続け、成功体験を積み重ねている状態
  • プロジェクトを成功させたいという思いが強いがために、過去の成功体験をもとにチームメンバーが考えた方法に対して失敗しない方法と称してアドバイスをしすぎてしまう状態

をマネージャー・ハイになっていると仮定して考えてみます。

マネージャー・ハイになっている時のマネージャーの心境を想像してみると、次のようなことが考えられそうです。

  • エンジニアとして自らの手で成果を出せていた過去と、マネージャーとしての役割のギャップに悩み、手を動かし続けてしまう
  • 自分が手を動かした方が正確だと考えてしまう
  • マネジメントにより成果が出るまでには時間がかかるので、短期的な成果を追い求めてしまう

なぜマネージャー・ハイに陥ってしまうのか

では、なぜマネージャー・ハイの状態に陥ってしまうのでしょうか。

一つは、マネージャーがかつて優秀なエンジニアだった頃の経験が影響を与えていると考えます。
過去、さまざまな困難を乗り越えてきた経験は、自らの技術的なスキルや問題解決能力が高いという肯定感を与えます。
この経験は、病みつきになる感覚で、マネージャーになってからも、具体的な技術的手段や、問題の解決方法をアドバイスすることによりプロジェクトが成功すると、さらに自己肯定感を高めることに繋がります。

次に、責任感の強さです。過去、困難な課題を解決して成功に導いた要因の一つとして「責任感が強い」ことが考えられます。
成功をおさめた人でも、必ずしも成功体験ばかりではなく、失敗体験も数多く経験したことでしょう。
責任感が強く、失敗に導きたくないという気持ちから、メンバーの考えた手段よりも自らの手段を選ぶことを求めてしまうことに繋がってしまいます。

もう一つは、メンバーに対する信頼です。スキルや能力が高いからこそ、メンバーのスキルや能力に不安を感じてしまい、信頼できなくなってしまうことが考えられます。
メンバーが行動して成果を出すということは、不確実さを伴うことです。
マネージャー自身が手を動かし続けてしまうという行動は、損失を回避しようとする人間の行動を説明しているプロスペクト理論*1からも説明がつきます。

一方でメンバーはどう感じるのか

マネージャー・ハイの状態でメンバーはどう感じるでしょうか。

最初は優れたやり方を教えてくれる、技術を学べるというポジティブな感情を抱くかもしれません。
しかしながら、時間が経つにつれて、メンバー自身の考えを受け入れてもらえないという感覚に陥ってしまうかもしれません。
そして、最終的には自分がやっても否定される、ならば考えない方が良いと感じるようになり、メンバーの主体性やモチベーションを下げることに繋がりそうです。

そして、マネージャーが手を動かしたり、課題を解決し続けていってしまうことにより、メンバーは成長の機会を奪われることになります。
私の過去の経験を振り返っても、成功体験よりも失敗体験の方が多く、失敗したことで「次は別の手段を試そう」という改善のモチベーションにも繋がりました。
失敗から学べることは成功から学べることよりも多いので、マネージャー自身が手を動かしてしまうことで、メンバーが失敗により成長する機会を奪ってしまうことに繋がります。

マネージャー・ハイにならないために心がけたいこと

いつからか、私はマネージャーの仕事は、組織の潤滑油のような役割であるべきと考えるようになりました。
歯車は大小さまざまな大きさで、形状も微妙に異なる。その歯車を円滑に回すために重要なのが潤滑油です。
油は与えすぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。絶妙な加減が重要です。

組織の中にもさまざまな人がいる、だからこそ潤滑油のように動きを良くする働きをする人が必要です。
普段は、マネジメントに徹して、メンバーが困ったときに手助けする、それがマネージャーの役割であるべきだと考えます。
(比喩がよくないですが、組織で働く人を歯車と言っているのでは決してありません)

一方で、マネジメント対象のメンバーが少なく、自らも手を動かさないと仕事が成り立たないというプレイングマネージャーの方も多いと思います。
かくいう私も、決して優れたスキルや能力を持ち合わせたエンジニアではありませんでしたが、過去プレイングマネージャーの経験がありました。 自らも手を動かす傍らで、チーム全体としての成果を出すために奔走していた気がします。

一方で、プレイングマネージャーとして過ごした期間は、自らの考えをメンバーに押し付けてしまいがちな場面も数多くありました。
マネージャーからメンバーの立場に戻った今振り返ると、チームとしての成果と、メンバーが主体的に考えて成長する機会のバランスが適切だったかと考えると、改善の余地があったのではないかと考えています。

まとめ

チームとしての成果の最大化を考えた時、短期的にはマネージャーがアドバイスしたり、手を動かした方が成果が出る場合もあります。
一方で、長期的に見ると、メンバーの成長を妨げ、本来チームの成長によって得られた成果が獲得できない状況に陥る可能性もあります。
そのバランスが非常に難しいと感じます。
またマネジメントをする立場になったら、潤滑油のような存在になり、メンバーの成長を促せるマネージャーになりたいなと考えています。

*1:Kahneman, D. and Tversky, A (1979), “Prospect theory: Ananalysis of decision under risk.” Econiometrica, 47(2)263-290.